最終回:下野ヒトシ指揮者デビュー公演、本番レポート

2011年9月25日。

雲の隙間から時折光が差し込み、空気は秋の気配を感じつつある大阪。

「おはよう。」
下野さんは、いつもと変わらない様子で現れた。

指揮者デビューの会場となる「いずみホール」へ車で向かう。
窓の外に流れる景色を下野さんはどんな想いで見ているのだろう。
ふとそんなことを思った。

そういえば、前日大阪へと向かう新幹線の中、「音楽を聴いていいかな?」と隣に座るマネージャーに気遣いつつ、イヤホンを付けて音楽を聴いていたのを思い出した。
音楽を聴きながら彼の視線の先にはあの時何が見えていたのだろう?
新幹線の車窓に流れる景色と音楽が下野さんを大阪へと誘う。

会場へと向かう車中、
「自分が本番前にどんなふうになるのか全くわからない。いつものライヴだったら、心地よい緊張感に包まれながら本番を迎えられるんだけどね。今日は自分でもどうなるのか本当に想像が出来ない。いつもと同じならいいんだけどね。」と下野さん。
そして、国内外からこの日を迎えるにあたり沢山の応援メールが届いたと話す。
そのひとつひとつのメッセージが下野さんの胸に届いたはずだ。

車は大阪の街を目的地へと走る。
右手に大阪城が見えてきた。
目的地まであと少し。

会場のいずみホールは大阪城公園そばの高層ビル郡にあるクラシック専門のホール。


天井や壁のデザインをはじめ、床、椅子、会場内に取り付けられた8基のシャンデリアなどを緻密に計算された音響効果により「楽器の集合体」に包み込まれるような空間を実現したホールである。(いずみホールホームページより抜粋)

楽屋口から会場へ入ると豪華なアレンジ花が迎えてくれた。
「祝!下野ヒトシ様」


すでにリハーサルが進んでいて、オーケストラの音色が場内を包んでいた。
楽屋に荷物を置き、足早にステージ袖へと向かう。
ステージ上では、対談でご一緒した守山氏がタクトを振っており、その様子を静かに観る下野さん。


そして、まもなく始まる自身のゲネプロ(本番前最後のリハーサル)に備える。

この半年間下野さんと行動を共にしたタクトと楽譜を手にステージへと向かう。
守山氏が客席から下野さんを見守っている。

ゲネプロが始まった。
9月初めに行われたオーケストラリハーサルとは格段に違う空気を感じる。
自信に溢れ、迷いのないコンダクティング。
6ヶ月という期間で成し得たとは思えないほどの気迫。
自分が表現したい音楽、それはまるでひとつひとつの音に色をつけていくような作業、それを見事にこなしている。
下野さんの気迫はオーケストラの皆さんにも伝わる。
リハーサル後、オーケストラの皆さんから拍手。
指揮者、下野ヒトシとオーケストラの信頼感がそこに生まれていた。


「全ての音が聴こえた。」下野さんは、ゲネプロ後こう語った。
彼の楽譜には彼自身でしかわからない沢山の書き込みがされている。
この日のために、その楽譜に何十回、いや何百回も目を通したに違いない。
そしてその楽譜は紛れもない彼の宝物になったはずだ。

楽屋へ戻り、本番までの時を静かに過ごす下野さん。
この日のために誂えた真新しい燕尾服は、下野さんにとても良く似合っていた。
この「THE ROAD TO THE CONDUCTOR」でもご紹介したように、それは細部にわたり彼なりのこだわりに溢れたものだった。
そして何よりそれは、下野さん自身が袖を通すことによって完成されたと思う。

楽屋から再びステージ袖へと向かう。
共演されるピアニストの新岡左知子さん、児玉由里子さんと最終確認。

時計の針が19:30をさす。
本番まであと10分。
ステージでは1つ前のプログラムが演奏されている。

演奏が終わり、大きな拍手と共に守山氏、ピアニストのみなさんがステージ袖に戻ってきた。

ステージ上のまぶしいライティングが下野さんの足元を照らす。



さあ、いよいよ本番。
『指揮者、下野ヒトシ』のデビューだ。

ピアニストのお二人が先に、そして下野さんがステージへと向かう。

客席に向かって一礼。
大きな拍手と共に指揮台へ上がる。

表情はとても穏やかだ。

最初の音であるクラリネット奏者とアイコンタクト。



「ラプソディ・イン・ブルー」が始まった。

ステージ袖の重厚なドアの小さな窓からも伝わる舞台の温度。
客席側ではなかったため、終始下野さんの表情が見てとれる。


指揮をしている下野さんはゲネプロ以上に自信に溢れ、そして何よりその場をとても楽しんでいるように見え、それがこちらにも伝わってくる。


タクトが振り下ろされ、演奏が終わった。
客席から大きな拍手。
笑顔の下野さん。
ピアニストのおふたりとハグ。
その表情はやり遂げた満足感に満ちていた。
晴れやかな笑顔がこぼれている。

「ラプソディ・イン・ブルー」を終えて、最後は出演者全員での「シャンパンの歌」で再びタクトを振る。
リラックスしていて楽しそうだ。

すべてのプログラムが終わり、ステージ袖へと戻る出演者の皆さん。

下野さんも戻ってきた。
大変なプレッシャーの中での大舞台。
後から戻って来るオーケストラの皆さん一人一人を笑顔で迎える。





何かを始めることは決して楽しいばかりではないと思う。
夢を実現するためには、つらく苦しいことの方が多いかもしれない。
そのことを常に念頭におき、逃げずに果敢にチャレンジしている下野さんの姿には圧倒される。
今やらなければならないことはその人にしかわからないし、それをわかっている人は少ないのだと思う。

そして下野さんはすでに次の目標に向かって歩き始めている。

THE ROAD TO THE CONDUCTORは、さらに進化を続ける。

これからの「指揮者、下野ヒトシ」にどうぞご期待下さい。

 

第4回:下野ヒトシ、守山俊吾氏対談

本番直前の「THE ROAD TO THE CONDUCTOR」は、9/25の公演でエウフォニカ管弦楽団を率いて指揮をされる指揮者、守山俊吾氏との対談の模様をお届けします。

9月上旬、大阪で行われたオーケストラリハーサルは、本番さながらの緊張感の中、しっかりと決められたタイムスケジュールの元で進められました。

何十という音をひとつにまとめあげる指揮という仕事は、迫力とそれとは対照的な細やかな気配り、そして何よりも指揮者が持つ確固たる自信の上に成り立ち、その魅力は、リハーサルといえども一時も目を離すことが出来ない程のものでした。




『守山氏に「指揮の理念」について伺いました。』

 
守山氏(以下M):タクトを振るということは自分のメッセージをタクトで伝えるということです。
自分が何を考えているかということを言葉ではなく、タクトさばきで伝えるわけですから、何も言わなくてもタクトの上げ下げのスピードや角度といったもので全てが表現出来れば一番理想的だと思っています。
そして、どれだけメンバーとコミュニケーションがとれるかということだと思います。

『リハーサル中もオーケストラの方々とのコミュニケーションを大切にされていた守山氏にコミュニケーションについて伺いました。』

 
M:それは社会のしくみと同じです。
いろいろな楽器の人がいて、考えの違う人もいますが、その人たちをひとつにしないといけない、それはどこか総理大臣と似ているかもしれませんね。
社会のしくみそのものの中に立っていくわけですから、全員が頷くだけの何かを持っていなくては駄目ですし、だから指揮者は大変な仕事だと思います。

『今回指揮者デビューをする下野さんに期待することを伺いました。』

 
M:指揮者というのは、誰にでもなれるものです。
学校の先生だと教員免許を取らなければ教員にはなれない、調理師も調理師免許を取らなければなれない。
しかし指揮者は誰にでもなれるのです。
但し、なった時に認められないと指揮者になったとは言えませんし、音楽に認められたとは言えません。
また、指揮者というのはカリスマ性もなくてはいけない。
自分の音楽に揺るぎない自信を持って訴えることも大事ですし、オーケストラの団員には謙虚でないといけない、、、等色々あります。
下野さんは、演奏家としても超一流の方でもあるわけですから、更に経験を積めば、僕は立派な指揮者になると思います。
指揮というのは、現場で実際に振ってみないと、いくら机の上で理論をやっても駄目です。
現場に行き、この楽器はどこの音域が一番良いかとか、様々なことを知った上でオーケストラと一緒に演奏していれば、下野さんは素晴らしい音楽センスを持ってらっしゃると思うので、良い指揮者になると思います。
期待しています。

下野:ありがとうございます。
守山先生から教わる事はとても多く、その時々の教え方が、クラシックに対して思い描いていた僕のイメージとは全く違い、多分にジャズやポップス的な要素を持ち合わせていて、それらの音楽の境界線って実はないんだということを知りました。
クラシックに没頭する事、そしてクラシックの捉え方が変わった事は、僕の音楽制作に良い影響を与えたと思っています。
これからも、色々なことを教えてください。





本番まであと数日。
「THE ROAD TO THE CONDUCTOR」では、本番の模様もレポート。
当日の下野さんに密着していきます。
どうぞお楽しみに!

守山俊吾氏Profile

大阪音楽大学(クラリネット科)卒業。
1971年渡欧し、セント・チェチリア音楽院のウルデリコ・パオーネ氏、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院でルドルフ・イエッテル氏に師事。
大阪府音楽団指揮者を経て、1977年フリーの指揮者としてデビュー。
1986年ブルガリア・ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団、国立ブルガリア室内オーケストラを指揮。
1995年日本人として初めてロイヤル・ニュージーランド・バレエ団の指揮者として契約。16公演を指揮、1997年ブルガリア・ルセ国際音 楽祭に客演指揮者として招かれ、ルセ・フィルハーモニー管弦楽団他を指揮の他、8月にはハンガリー・ショプロン市のタイトル「自由への道」の記念コンサー トで「第9交響曲」を公演。
1977〜1998の年末年始、サンクト ペテルブルグ・ムソルグスキー記念オペラ・バレエ劇場(旧マールイ劇場)にて「ザ クラシカル バレエ シアター」の4公演を指揮、絶賛を博し、今年度からはコングレス・シンフォニー&バレエオーケストラの主席客演指揮者として公演する。
合唱との共演、作編曲など多方面に活躍しているが、バレエ指揮者としてはレニングラードの総芸術監督セルゲイエフ氏に「魔法の棒を持つ男」と激賞された。
サンクトペ テルブルグ フィルハーモニー協会名誉会員第1号指揮者。
ブルガリア国立ソフィアフィルハーモニー管弦楽団常任客演指揮者。

 

第3回:ピアニスト新岡左知子さん、児玉有里子さんをお迎えしました。

「THE ROAD TO THE CONDUCTOR」第3回は、指揮者デビュー公演で共演されるピアニスト新岡左知子さんとの対談の模様と、同じく共演されるピアニスト児玉有里子さんにお話をお伺いした模様をお届けします。


『新岡さんからご覧になった「ラプソディ・イン・ブルー」という曲について、また演奏されるにあたって特に意識されているところを伺いました。』

 
新岡さん(以下N):この曲は、クラシックとジャズが融合している曲だと解釈しています。
曲の場面によってニュアンスも違いますし、その時々のフレーズが持っている要素を的確に判断して、それを表現出来れば良いと考えています。

『オーケストラとピアノ2台での演奏について伺いました。』

 
N:私は「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏するのは今回が3回目で、その度にパートナーが違いました。
今回はジャズピアニストの児玉有里子さんとの共演なので、彼女が持っているジャズの要素と私のクラシックの要素がうまく解け合うと良いなと思っています。
また、児玉さんは10年来の友人でもありますし、お互いにこう弾きたいというものを遠慮せずにディスカッションしながら、また楽しみながら音を作っていけたらと思っています。

『今回、ピアニストお二方と共演されるにあたり、下野さんに伺いました。』

 
下野(以下S):「ラプソディ・イン・ブルー」は、クラシックとジャズのテイストを兼ね備えた名曲です。
指揮者やプレイヤーの表現の仕方次第でジャズ的にもクラシック的にも演奏することの出来る非常に柔軟性にとんだ曲だと思います。
例えばジャズピアニストの小曽根真さんの弾く「ラプソディ・イン・ブルー」は、とてもジャズエッセンスが強くアドリブも豊富に入ったアレンジになっていて素敵です。
今回の演奏では、どちらかというとクラシック寄りに奏でる「ラプソディ・イン・ブルー」を意識して指揮したいと考えています。

クラシックピアニスト新岡左知子さんとジャズピアニスト児玉有里子さんとのコンチェルトは、これまでに多くのジャズプレイヤーの方々と共演してきた自分自身のクラシックへの新たな挑戦でもあります。
これまでの経験をふまえ、児玉さんのソロパートではジャズのフレーバーを入れながらも、新岡さんと共演することでクラシックの要素は崩さずにということをポイントに考えています。

『下野さんの指揮について新岡さんに伺いました。』

 
N:ご一緒させて頂く度にどんどん進化されているのが目に見えてわかります。
何よりも呼吸が変わって来られたように思います。
とても深く呼吸をされるのが感じられるようになったので、 今の下野さんは指揮棒を見なくても分かる指揮をされるようになったと思います。

S:ジャズやポップスのセッションにおいては、クラシックで言うアウフタクトを通常は楽器を弾きながらなのでアイコンタクトで行います。
ただ、このアイコンタクトにあまり表情はありません。
アイコンタクトは基本的に次のセクションへの進行の合図であったりします。
またテンポはドラマーなどがカウントなどで示します。
これらを両方とも担うのが指揮者の役目ですね。
そんなアイコンタクトやカウントは、割と淡々と出す事が多いのですが、クラシックの世界には、そのキューにも色があり、呼吸があり、その点において最初僕は躊躇しました。
キューを出す意味や役割はジャズもクラシックも同じですが、その出し方に少し違いがあるということです。
美しい奏へのアウフタクトは、美しいものを見ている時の喜びの表情、激しいシーンへのアウフタクトは、目を見開き感情的に、という表情表現が指揮者には必要になってきます。
何故ならその思いが演奏者に乗り移るから。
最初は照れてしまう事もありましたが(笑)自然とそういう表情になりたくなってきたのです。
実は、この事は指揮の経験だけで習得してきたことではなく、同時に勉強しているピアノでも先生に同じことを言われてきたことにより、徐々に習得してきた事なのです。
今は、その表情のあるアウフタクトを出す事が出来るようになってきたと思います。

『本番に向けて伺いました。』

 
N:今回のコンサートは主催という立場でもあり、少しでも東日本大震災復興の力になるようなコンサートにしたいと思っています。
またエウフォニカ管弦楽団というオーケストラは、私が初めて共演したオーケストラです。
そこで私が味わった感動を今回皆さんにも是非味わって頂きたいと思っています。
今回は、初めてオーケストラと共演される方もたくさんいらっしゃいます、私の生徒も出演しますし、その心配もありますが、良い緊張感を保ちながら舞台を楽しみたいと思っています。
また、演奏後下野さんと握手をし、皆さんからの賞賛を浴びることをイメージしながら、本番に望みたいと思います。

S:とにかく早く本番で指揮をしたいですね。
いろいろなことを勉強して来ましたが、その勉強はいつまでも尽きませんし、「もう少し勉強してから」と消極的になるのではなく、今の自分の表現力を最大限に発揮してオーケストラをドライブしたいと思っています。
先日、実際に公演する会場を見て来ましたが、音響も良く、とても素晴らしい会場でした。
皆さんにも楽しんで観て頂きたいと思っています。



『児玉さんからご覧になった「ラプソディ・イン・ブルー」という曲について、また演奏されるにあたって特に意識されているところを伺いました。』

 
児玉さん(以下K):私は普段はジャズを専門的にやっています。
作曲したジョージ・ガーシュウィンは、ジャズの曲も数多く作っている作曲家でもありますので、この曲はクラシックにはないスイング感、リズム感を楽しんで頂ける曲だと思っています。

『下野さんの指揮について伺いました。』

 
K:大変わかりやすい指揮をされていらっしゃるので、私も楽しんで演奏させて頂いています。
下野さんはジャズにも大変お詳しい方ですし、クラシックの中にこの「ラプソディ・イン・ブルー」の持つスイング感も指揮で表現されると思います。


『本番に向けて伺いました。』

 
K:普段はジャズの世界でベース、ドラムのトリオなどで演奏していますので、大人数のオーケストラとの共演というのは、とても楽しい部分と難しい部分があります。
今日のオーケストラリハーサルを経て、本番はガーシュウィンの作った曲に親しみを持って演奏したいと思っています。



新岡左知子さんProfile

大阪音楽大学ピアノ科卒業
MUSICA VITA音楽教室 主催者
ピアノ・ヴァイオリン・声楽を展開し、後進のピアノ指導にあたっている。
これまでにエウフォニカフィル管弦楽団、シティ・オブ・大阪シンフォニア「OPUS」、ウクライナ国立フィルハーモニー交響楽団、千里フィルハーモニア等数多くのオーケストラと共演。
「Coro sowave」コーラスを立ち上げ伴奏ピアノストを務める等、演奏会、声楽・室内楽の伴奏、ブライダルプレーヤーとして関西の一流ホテルで演奏活動も行う。
この他にMUSICA VITA音楽教室の講師による演奏会、未就学児童のためのコンサート「みんなのどれみ〜音楽ひろば〜」や、クラシック音楽をわかりやすくかつ親しむ事をテーマに「音楽の花束」や「歌(か)恋(れん)の会」にて声楽の演奏会も行っている。
またオペラの伴奏ピアニストとしても研鑽を積む。

MUSICA VITA音楽教室
http://musica-vita.com

Twitter
http://twitter.com/#!/sachikoniioka


児玉有里子さんProfile

6歳よりピアノを始める。学生時代は、吹奏楽部でクラリネットを担当。
ピアノ講師資格も取得すると同時にジャズに興味を抱き始める。
2003年、ニューヨークに渡り、ヴォーカルレッスンを天野昇子に受け、本格的にジャズヴォーカリストとしての活動を開始。
ジャズピアノを通じて取得したジャズ理論をジャズヴォーカルに組み込んだ、稀に見るヴォーカル唱法で観客を   魅了する。
2011年、自身初のCD『Music Of The Hours』をリリース。
馴染みのあるジャズのスタンダードナンバーから、オリジナルまで幅広い選曲。
現在CDリリースライブを全国で行っている。
また、活動はMUSICA VITA音楽教室で講師を勤める傍ら、ジャズライブハウス、ホテル、バーでの演奏、ホールでのコンサートなど、精力的な活動を行っている。

児玉有里子のDiary
http://ameblo.jp/yurijazz/

 

第2回:燕尾服仮縫いレポート

 
指揮者の服装にはこれといった決まりはなく、「フォーマルで動きやすいこと」を基準に、指揮者それぞれが自分に合ったものを選んでいます。
例えば指揮者用の燕尾服は、指揮をする際の手の上げ下げのラインが美しく見えるようアームホールを広めに取っています。
また、手を上げた際、肩のラインが盛り上がることなく、背中のシワも少ないデザインになるよう計算されています。
一見同じように見える燕尾服も、機能性だけでなく、少し視点を変えると、指揮者独自のこだわりを垣間みることが出来ます。
例えば、燕尾服の裾の長さやスラックスの側章だけに留まらず、シャツ、カフス&胸ボタン、ベスト、サスペンダー、ポケットチーフ、蝶タイ、靴、そして指揮棒などにも指揮者独自のこだわりが込められるところといえるでしょう。
下野さんならどんなものをチョイスするのか、気になるところですよね?
以前ブログで、「チーフ」「燕尾服オーダー」「オペラパンプス」について語っていた下野さん。
(以下、オフィシャルブログ「Royal Blue by Hitoshi Shimono」より抜粋)


「dunhill formal chief」

 
ダンヒルのフォーマル用のチーフ
純白な素材は、素敵な光沢を持ち合わせています。
燕尾服にぴったり。
9月のコンサートで、このチーフを胸に飾ろうと思います。



「Tailor Made Tailcoat」

 
今日はテーラーメイドで燕尾服を注文してきました。
今回は指揮者用の燕尾服。
普通の燕尾服のデザインとは違い、腕を上げる事が多い指揮者や社交ダンスの為の特殊なカッティングをする事により、肩のラインなどを綺麗なシルエットで保つことができます。
今回は9月のコンサートに向けての新たな1着。
イタリアの最高級ブランド「エルメネジルド・ゼニア」
ゼニアの生地の中でも、光沢豊かで耐久性があり、シワになりにくい、
「エレクタ」
こちらの生地を使って仕立てることにしました。
デザインも普通とは変えて、少しテールを長めにしたり、裏地も黒はやめてバーガンディにしたり、白ベストの背も白はやめて綺麗な藤色にしたり、僕ならではのオリジナリティーを加味しました。
仮縫いが二週間後。
仕上がりが楽しみ。
合わせて新調するオペラパンプスも良いものに出会えるといいな。


『オペラパンプス』

 
9月25日のコンサートに向けてオペラパンプスを探していました。
なかなか良い品に出会えない中、靴といえばこの方しかいないなと、僕の靴をいつも磨いてくれている世界的シューシャイナーの丸谷さんに相談してみたところ、彼が深くコラボレートしているイギリスの名門「エドワード・グリーン」に手配してくれるという嬉しい言葉を頂き早速お願いしました。
丸谷さんのセレクトは間違いないので100%の信頼。
なんせ、僕の靴を全足知っているから好みもサイズも熟知している。
そんな中、本日エドワード・グリーンから丸谷さんに写真が届き、丸谷さんが僕にも送ってくれました。
画像を見てみると、完璧!
まさに僕が探していたオペラパンプス。
リボンもバランスが良くて素敵。
早く届かないかなと、今からワクワクしています。




やはり特に気になるのは「燕尾服」のその後ではないでしょうか。
「燕尾服」は、着実に仮縫いが進んでおり、この「THE ROAD TO THE CONDUCTOR」では、その仮縫い写真を独占入手!
それがこちら!!!

 




早速、下野さんに仮縫いの「燕尾服」に袖を通した感想を伺ってみました。

 
下野さん:まだ、仮縫い段階ですが、思ったよりもタイトな仕上がりになっていました。採寸が良くできていたからかなり体にフィットしています。生地も最高級のものをチョイスしたので、光沢が素晴らしかったです。
あと通常の燕尾服よりも「重み」がありましたね。僕は燕尾服は今回で3着目。普段着るスーツやタキシードにはない燕尾服ならではの「尾」の部分が重みを生んでいるのですが、今回は後ろ姿を見られる指揮用の燕尾服を作った為、更に尾を通常よりも長めに作ったことにより、見た目はとても格好良くなったのですが、幾分重くもなってしまいました。この重みを軽減するには、更に薄い生地を使うしか有りませんが、軽い分、薄いので今度はしわが寄りやすくなる。微妙なんです。。。色々悩んだあげく、あまり薄い生地にはしませんでした。
最終の仕上がりが今から楽しみです


そして「オペラパンプス」も到着!

 
イギリスの名門「エドワード・グリーン」が認める世界的シューシャイナーの丸谷誠さんセレクトのオペラパンプス。
早速、その美しい靴を履いた写真と丸谷さんとのツーショットも入手!!

  



そしてもうひとつ、指揮棒について。
3月からスタートした指揮のレッスンで、下野さんと常に行動を共にしている相棒とも言うべき「指揮棒」。
下野さんならではの「指揮棒」へのこだわりを伺ってみました。

 
  
下野さん:山田一雄先生の『指揮の技法』には「指揮棒はむしろ軽すぎる方が良い」と書かれています。
僕も軽めの指揮棒を使っています。長さは380mm。握る部分はコルク製で
大きめのもの。素材はグラスファイバーを使っていますが、近々カーボンにする予定です。より軽いので。



指揮者デビューまであと約1ヶ月。 コンダクティングと共に、ステージでどんな指揮者ファッションを披露してくれるのか、どうぞ楽しみにしていて下さい。

下野ヒトシ、指揮者デビュー公演

 
「MUSICA VITA Con Tutti!〜音楽と共に復興を願って〜」
開催日時:2011年9月25日(日)
     16:30開場/17:00開演
会場:いずみホール(大阪市)
演奏曲:ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー
《指揮》 下野ヒトシ
《1st Pf》 新岡左知子
《2nd Pf》 児玉有里子
《管弦楽》 エウフォニカ管弦楽団





 

第1回:下野ヒトシ、小森康弘氏対談

『指揮を始めようと思ったきっかけを伺いました。』

 
下野(以下S):「映画音楽の制作」この活動が自分にとっての近い将来の目標としてあります。その活動を自在にハンドリングするために今何をするべきなのだろうと考えた時に、2つの経験が必要だと思いました。
1つは「ピアノ」。ピアノは幼少の頃から母の影響で弾いていたのですが、ベースを弾き始めてから随分とブランクがありました。オーケストラを作曲する上で最も機能する楽器はピアノだと僕は思っています。その為にもう一度クラシックピアノを勉強しようと思いました。
そしてもう1つが「指揮」でした。自分で書いた映画音楽をオーケストラで演奏する為に自ら指揮することは、音楽を限りなく自分のイメージに近づける為には必須だと思います。
つまり、音楽を作曲し、その音楽を「弾き振り」する事こそが僕が今一番したいことなのです。
そういう経緯で誰かに指揮を習おうと思い、知人の協力を得て小森先生に出会いました。



『それぞれの第一印象とレッスンを重ねてきての感想を伺いました。』

 
S:最初の印象は「優しそうな方だなあ」と思いました。実際優しかったです(笑) 小森先生は基礎を重んじていて、指揮棒の持ち方やオーケストラにとって分かりやすい振り方などをみっちり教えてくれました。指揮科で勉強したことのない僕にとって、この基礎からのレッスンはとても有意義で、自信に繋がりました。最初から自由でいいんだよ、自由でいいんだよという教え方をする方もいますが、自由だけじゃなくて、まず最初に「指揮とはどういうものなのか」という基礎を教えてくれた先生ですね。

小森氏(以下K): 第一印象は「あ〜かっこいい人だな」と思いました(笑)。私はクラシック界で活動しているので、ポップス界の方とあまり接することがなかったものですから、全然違うものを感じました。すごくスマートだなと。でもレッスンを重ねていくうちに、ポップスとかクラシックとかそういう垣根は関係なく、音楽そのもがお好きだという強い情熱の持ち主なんだということが分かってきました。私もクラシックだけでなくジャズとかにも興味があって好きなので、そういうお話を下野さんから聞けるのもとても楽しみなんです。

S:先生は、元々エレクトーンも演奏されていて、そういった経歴からもクラシックだけに特化しているのではなく、マルチに音楽を見つめている人が僕は好きなんです。
音楽をトータルな意味で理解している人に習えるっていうのは幸せだなと思います。
だからレッスンがすごく楽しいんです。
厳しいですけどね(笑)

K:結構指示が細かいです。(笑)

S:現在指揮以外でもクラシックピアノも師事していますが、ポップスやジャズの世界ではあまり「これは駄目」って断定することってないんですよ。どちらかというと自由な創造というか、それがインプロヴィゼイションだと思うのですが。
でも、クラシックの世界は「これは駄目」っていうルールが結構あり、実際先生から怒られるんです。
それが最初ちょっとびっくりしましたが、それで嫌だなと思ったことはなくて。
キャリアを重ねると教えてくれる人が少なくなりますよね。でもクラシックの世界に入ることにより、自分の前に「駄目だ」って言ってくれる貴重な存在がまた現れたことに、ものすごく嬉しくなったんですよ。(笑)
年は若くは戻れないけれど、気持ちや学ぶ姿勢は学生に戻れる。
そう感じた瞬間が人が伸びる時じゃないかなと思います。

K: クラシックをやっていると、もう「駄目!」ばかりですよ(笑)年数を重ねても先生からは駄目しか言われないですね。それが下野さんにはカルチャーショックだったんですね…。私たちにとっては当たり前のことだったんですけれど。

S:ポップスは音を出すことに対して自由な尊重があるんです。
でも、「ゆるい」というネガティヴな瞬間も生まれてしまうことがあります。

K:それになると逆に怖いですね。

S:そう怖いです。
そうなるぐらいなら「シビア」がよっぽどいいです。


『指揮者として歩み始めた「下野ヒトシ」というアーティストについて小森氏に伺いました。』

 
K:これからが長い道のりだと思います。「指揮」というのは一生をかけて追求してゆくもので、40歳でも若手と言われる世界なのです。私はまだ30代ですけれども、30代って幼稚園にも入ってない位な感じだと思うのです。そんな私もまだ試行錯誤な段階なので教えるなんてことはおこがましいのですが…。下野さんの良いところは本当にどん欲に食いついてくるということ。さっきも厳しいっていう話がありましたが、どんな厳しいことを言っても、どんな細かい要求をしてもめげずにそれをやろうとする、それは本当に素晴らしいことだと思います。指揮者には技術的なことはもちろんのこと、センスや人間性など様々なものが要求されますが、どん欲であることは非常に大事で、それが備わっているということは強い武器だと思います。

S:何でもどん欲にっていうのは僕の根幹にある信念だと思います。
僕が演奏家だけにとどまらず、作編曲家やプロデューサーになった理由もそのどん欲さからだと思います。
ベーシストだけでそこに集中して人生を歩む方法もあったと思うんですが、それではきっと物足りなかったのだと思う。
「一生ベースだけ弾いていて、ベーシストとして生きていけば、もっと良いベーシストになってたかもよ。」って言われるかもしれないけれど(笑)。
もっと良いベーシストになれたかもしれないけれど、音楽をトータルにドライヴするアーティストになりたかった。指揮者としての活動もまたしかり。
小森先生は僕によく「譜面の勉強をしなさい」と言います。
小森先生には、たぶんもう何百回も見たことがある譜面が沢山あると思います。
その譜面をもう一度見ようと思う気持ちは何故か。
それはどん欲さだと思うのですよ。
もっと譜面に何かが落ちてはないだろうか?もうないと思ったけれど、あっ、あった、こんなところに見落としていた記号が、作者の思いが、それらを見つけるどん欲さが大切だからこそ、譜面を読み続けるのだと思います。



『指揮のレッスンを始めて間もなくブログの中で、「今まで、ジャズ、ポップ、ファンク、R&Bなど様々な音楽を表現してきましたが、今、クラシックに深く傾倒する事によって音楽を新しい角度で見直せている日々。」と綴った下野さん。レッスンを始めて数ヶ月たった今を伺いました。』

 
S:こんな言い方をすると、じゃあ今まではどうだったんだと言われるかもしれないけれど、「耳が良くなった」と思います。
今まで作ってきた音楽で必要とされる耳の良さではない耳の良さ。
それと音に対しての「想い」が変わりました。
作品を構成している一つ一つの音が生き物でその音を想うということです。



『指揮者は大勢の方を束ねていく存在。指揮をされる中でどのように音を聴いていらっしゃるのか、指揮者にとって何が大切なのかを伺いました。』

 
K:それぞれを細かく聴いているというよりは全体を大きく聴いているという感じです。もちろん間違えて演奏したり何か違うことをやっていたら気付きます。ただ一人一人を聴いてあそこがだめだった、ここがだめだったという聴き方はあまり私はしないですね。全体を聴いて、あくまでも全体のサウンドがどうなんだろうということに耳を傾けます。スコアから読み取った音を自分の中にはっきりと描いておく、自分のイメージを具体的にしておくということが指揮者にとって大事なことなんじゃないかと思います。



『指揮デビューで振る楽曲「ラプソティ・イン・ブルー」について伺いました。』

 
S:「ラプソティ・イン・ブルー」はジャズの要素もふんだんに入っているので、僕が最初に振る曲としてはすごく良かったと思っています。
小森先生との指揮の練習の一番最初は、「こうもり序曲」でしたが。

K: 「こうもり序曲」は、指揮の技術的な要素がいろいろ入っているので練習にいいかなと思って。私にとっての初めてのレッスンもこの曲でしたし。非常に難しい曲ではありますが…。
いろいろな要素が詰まっていますね。

S:二拍子ではじまって、三拍子やワルツも入ってきますよね。

K:いろいろな要素が詰まっていますね。

S:そうですね。最初は躊躇してしまいました。

K:ちょっといきなり難しいのをやりすぎちゃいましたかね(笑)

S:でもその中で9月25日のコンサートが決まり、課題曲が「ラプソティ・イン・ブルー」になったので、レッスンではそこに焦点を絞ってやり始めました。
「ラプソティ・イン・ブルー」も「こうもり序曲」同様いろいろなシーンがあって難しい曲だと思っています。

K: 「ラプソティ・イン・ブルー」というのは、ジャズでもあるしクラシックでもある。ガーシュウィンっていう人はそれらの要素をどちらが勝るでもなく絶妙なバランスでミックスさせた、素晴らしい作曲家だと思います。そういう意味では下野さんが指揮者デビューする時に振る曲としては良かったんじゃないかな。下野さんが今まで培ってきたものをすごく出せる曲でもあるし、なおかつクラシック音楽として作品を仕上げる勉強も出来るし、下野さんにふさわしい曲と思っています。

S:練習していくうちにすごく楽しくなってきました。

K: 「こうもり序曲」よりも上手になっている。(笑)

S:「こうもり序曲」もすごく楽しいです。
9月25日のコンサートが終わったら「こうもり序曲」をまた練習し始めたいと思っています。
更には交響曲を振りたいと思っているのですが、先生はどの曲が僕に良いと思いますか?
出来ればロマン派がいいんですが(笑)

K:下野さんはドヴォルザークの8番がお好きだということなのでドヴォルザークの8番なんてどうでしょう?

S:ドヴォルザークの8番いいですね。あとブラームスの3番もいいな。

K:渋いですね、あれは難しいですよ。

S:あとチャイコフスキーの6番。

K:あぁぁ、もう大曲ばかりですね(笑)

S:どれが一番いいですかね?(笑)

K: どれも難しいなあ。Teatro Raffinatoでも取り上げているドヴォルザークの8番がいいんじゃないですか?
先ずは。 ブラームスは一番難しいかもしれない。

S:どういったところが難しいですか?

K: 表現が難しい。ブラームスって独特の渋い世界感があって、ただ派手なだけではだめだし、地味なだけでもだめだし…。ストライクゾーンが狭い。特に3番は単に振ることが難しいし、曲が求める世界を表現をするには年齢や経験も必要だと思います。振るのが難しいという意味ではチャイコフスキーも技術的には難しいかもしれませんが、あの悲愴という曲はメッセージがはっきりとしているので、表現はしやすいかもしれません。
やるとしたらドヴォルザーク、チャイコフスキー、ブラームスの順かな…。

S:そこにいけるように頑張りたいです。
2、3年後くらいに。

K:色々な曲をやっていきましょう。

S:まずは9月25日。
そこに向けて何か先生からメッセージを頂けますか。

K:力一杯やってきて下さい。初めて指揮台に上がる時って演奏者とコミュニケーションを取るのが難しいのですが、そこに関しては私は全然心配していないです。下野さんは今まで色々な演奏家と一緒に活動されてきたというキャリアがあるので、オケの前に立って演奏者とコミュニケーションを取るということに関しては何の心配もない、絶対にうまくやってくれると思っています。あとはそこで今までやってきたことを最大限に発揮できるか、そこだけですね。とにかく力一杯やってきて下さい。

S:はい。ありがとうございます。

K:それと大事なことはそこで何が起きようと絶対に自分のポリシーを曲げないこと。

S:そうですね。
あとはもう自分も気持ち良く、そしてオケも気持ち良くなるように振ってきたいと思います。8月、9月追い込み練習、よろしくお願いします。

K:もっと厳しくなっていきますよ(笑)。

S:お手柔らかにお願いします。




小森康弘氏Profile
栃木県生まれ。宇都宮大学教育学部および東京藝術大学指揮科首席卒業。同大学院修了。修士論文はマーラーの「角笛交響曲とその周辺」について。 2006〜2007年、ウィーン国立音楽大学指揮科に留学。その後ミュンヘンに拠点を移し、バイエルン放送響、ミュンヘン・フィルにおいて研鑽を積む。 2008年帰国。指揮を小林研一郎、故・佐藤功太郎、松尾葉子、田中良和、小田野宏之、クルト・マズア、ハンス・マルティン=シュナイト、故・エルヴィ ン・アッチェル、ウロシュ・ラヨヴィッツの各氏に師事。これまでウクライナ国立ルガンスク・フィル、ウィーン・プロ・アルテ・オーケストラ、東京ユニバーサルフィル、名古屋フィル、セントラル愛知響、瀬戸フィル、N響アンサンブル等、国内外の多数のオーケストラを指揮。現在、東京音楽大学指揮科助手。
「指揮者 小森康弘のメガ盛りッ!ブログ 〜NOBLE et SENTIMENTALE〜」
http://ameblo.jp/yasuhirokomori/